フラボノイドの生理機能(まとめ)
植物はさまざまな代謝産物を生合成して、私たちの生活にも食品や薬品、工業原料など、いろいろな形で役立っています。
フラボノイドは、ベンゼン環(C6)2個をを3つの炭素(C)で結合したC6-C3-C6単位からなる、植物の代謝産物の総称です。フラボノイドを生合成する植物の種や科は多岐にわたっており、それらが作る化合物の数も多いため、その用途も色素から食品添加物まで多様です。
フラボノイドの歴史
花のいろはうつりにけりないたづらに・・・といつの世も美しい花の色は人々を魅了してきました。
植物の色素の研究については、さかのぼること数百年、1664年にはあのボイルの法則のロバート・ボイルによる植物色素による酸・塩基の中和 反応の指示薬に関する論文がでていたそうです。
その後、20世紀に入ってからは、フラボノイドの構造、生合成について研究がおこなわれ、その作用機序について解明がすすんできました。抗がん剤、心臓病の治療など私たち人体へのフラボノイドの有用性が明らかになりつつあります。
最近は、その抗酸化作用が注目を浴びて人気が高まっています。美容・健康ブームの波にのり(アンチエイジングやサビない体を目指すなど)、職場の花ならぬ華をめざしたキレイになりたいお姉さんだけでなく、働き盛りのおじさんまで、老いも若きもこぞってサプリで摂取しようと意気込むようになりました。
そこで、フラボノイドは私たちの体でどのような効果があるのか?フラボノイドの生体調節機能についてこれまでわかっているものをまとめてみました。
注意:以下のデータはいずれも学術論文の発表結果ですが、良い効果ばかりが列挙されています。これは、「効果がない」という結果が論文成果として認められない事情を反映しており、フラボノイドが万能薬であることを示しているものではない点に留意してください。
フラボノイドの効能
抗酸化作用
- フラボノイドが活性酸素種を産生するキサンチンオキシダ―ゼ(XOD)を抑制(PMID: 9461655,PMID: 12231379)
- 赤ワイン、クエルセチンおよびカテキンのLDL酸化軽減による動脈硬化進行抑制効果について(PMID: 9409251)
- ヘスペリジンが肝障害を誘導するCCl4を抑制することで酸化ストレスを軽減(PMID: 15683547)
- クエルセチンの抗酸化能による胃保護作用効果(PMID: 12504347)
- 血管平滑筋におけるクエルセチンのNO除去およびNOからの保護作用(PMID: 15044614)
- フラボノイドが各種疾患へも有用であることが報告されており、臨床への応用が期待されています。
心血管系・高血圧の軽減
- 疫学的な調査結果から、フラボノイドが心血管病を軽減(PMID: 11829313)
- 大豆イソフラボンが血管内皮細胞のNO合成酵素(eNOS)に作用し、血圧を低下させることで、閉経後の女性への代替療法としての可能性、お よび心血管病へのリスクを軽減(PMID: 16107535,PMID: 15655515)
- ジヒドロフラボノールの血管拡張作用と抗酸化作用による血栓溶解療法への応用の可能性(PMID: 15566394)
- クエルセチンが高血圧自然発症ラットの血圧を有意に低下(PMID: 11325801)
- ルチンはそのままでは水に溶けないため、ルチンを酵素処理して生成したクエルセチン配糖体であるイソクエルシトリン(EMIQ)は、酸化防止剤として食品添加剤への使用が知られている。EMIQが高血圧自然発症ラットにおける血圧上昇抑制作用ももつことがわかった(FFI J., Vol.211, No.7, p568-575 (2006).)
- ルチンの毛細血管収縮作用、毛細血管の抵抗力を高め、透過性の増大を抑制( 生化学辞典第3版 東京化学同人)
- アントシアニンを含有する紫トウモロコシが高血圧を予防(Foods Food Ingradients J. Jpn., Vol210,p744-749 (2005).)
抗アレルギー・抗炎症作用
- フラボノイド(クエルセチン、カンフェタノール、ミリセチン)が肥満細胞や好塩基球からのヒスタミン産生を抑制(PMID: 11121513)
- フラボノイドが肥満細胞の炎症性メディエーターを抑制(PMID: 14703695)
- クエルセチンやカンフェタノールなどのフラボノイドが細胞内Ca2+イオン濃度の上昇を抑制し、PKC thetaのリン酸化を抑制することで、間 接的に炎症性サイトカインやのメディエーターを抑制(PMID: 15912140)
- 好塩基球からのIL-4抑制作用を指標にフラボノイドの抗アレルギー活性の強さを調べたところ、ルテオリン、フィセチン、アピゲニン>ケンフェロール、ケルセチン>ミリセチンの順であった。 ・約1万人のフラボノイドの摂取に対する調査結果では、クエルセチン、ナリンゲニン、ヘスペレチンの摂取が高い群では、喘息の発症が減少(PMID: 12198000)
- 茶葉ポリフェノール、特にメチル化カテキンの抗アレルギー作用FFI J., Vol.209, No.3, p260-266 (2004), バイオサイエンスとインダストリー Vol.64, p500-504 (2006).)
糖尿病・肥満への作用
- クエルセチンは、ラットにおいて糖尿病性腎症を軽減(PMID: 15053821)
- クエルセチン摂取によるの2型糖尿病へのリスク軽減(PMID: 12198000)
- アントシアニンを含有する紫トウモロコシによる抗肥満効果(Foods Food Ingradients J. Jpn., Vol210, p744-749 (2005).)
- リンゴポリフェノールによる内臓脂肪(腸間膜脂肪)蓄積抑制、血中および肝臓の総コレステロールを低減、血中および肝臓の中性脂肪を 低減(バイオサイエンスとインダストリー Vol.64, p505-507 (2006).)
抗がん性・抗細胞増殖作用
- ミリセチンとクエルセチンのチオレドキシン還元酵素の抑制による細胞周期の停止を介した抗がん作用について(PMID: 16618767)
- フラボノイド摂取による直腸がんリスク軽減(PMID: 16923774)
- サクロジュースの前立腺腺癌に対する効果についての第II相プラセボ対照比較臨床試験(PMID: 16818701)
- フラボノイドによる腫瘍細胞のアポトーシス誘導について(PMID: 15533929)
- アントシアニンを含有する紫トウモロコシによる大腸発癌抑制効果(Foods Food Ingradients J. Jpn., Vol210,p744-749 (2005).)
抗骨粗しょう症
- ヘスペリジンが骨量の減少を抑制(PMID: 12771335)
- クエルセチンがRANKL 分子を誘導することによりNFkB and AP-1を介した破骨細胞分化の抑制(PMID: 15108355)
エストロゲン様作用
イソフラボンは、植物エストロゲンとして知られていますが、女性ホルモンとして知られるエストロゲンと化学構造が似ているため、生体に影響を及ぼすことから、大豆含有栄養補助食品の過剰摂取による安全性が問題となっています。
- 動物試験において新生児動物または未成熟動物に対する大豆イソフラボンの高濃度暴露により、生殖機能への影響等を示唆する報告(大豆 イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方 2006年5月 食品安全委員会資料)
- 大豆イソフラボンの摂取と乳がん等エストロゲンに感受性の高いがんの発生リスクへの関連性が報告(大豆イソフラボンを含む特定保健用 食品の安全性評価の基本的な考え方 2006年5月 食品安全委員会資料)
- 妊娠ラットへ高濃度投与の結果、雄の子供のテストステロンの減少、精巣発達の遅れ、生殖機能の異常(大豆イソフラボンを含む特定保健 用食品の安全性評価の基本的な考え方 2006年5月 食品安全委員会資料)
- 大豆イソフラボンのサプリメント摂取によるがん(乳がん、子宮内膜がん、前立腺がん)へ安全性については未確認のため、摂取推奨せず (PMID: 16418439, PMID: 16990564)
なお、大豆イソフラボンは体内では大豆イソフラボンアグリコン、つまり糖成分以外の部分となることから、大豆イソフラボン配糖体を含む食品は大豆イソフラボンアグリコンに換算して安全性評価を検討されています。
抗ウイルス性
- フラボノイド、クマリンポリフェノールなど植物由来の抗 HIV剤について(PMID: 16161055)
- ポリフェノールやフラボノイド等の抗単純ヘルペスウイルス剤への適用について(PMID: 16040137)
- インフルエンザウイルス感染へのルチン、クエルセチンの作用(PMID: 16793246)
虫歯
- お茶ポリフェノール:ミュータンスレンサ球菌の主要な病原因子であるグルカン合成酵素にきわめて強い阻害作用を示すことから虫歯抑制 作用が期待(FFI J., Vol.205, No.4, p325-330 (2005).)
などの報告があります。
※ 参考文献(総説、辞書)
- Flavonoid biosynthesis. A colorful model for genetics, biochemistry, cell biology, and biotechnology. Plant Physiol. 2001 126(2):485-93. PMID: 11402179
- The effects of plant flavonoids on mammalian cells: implications for inflammation, heart disease, and cancer.Pharmacol Rev. 2000 52(4):673-751. PMID: 11121513
- Flavonoids: a review of probable mechanisms of action and potential applications. Am J Clin Nutr. 2001 74(4):418-25. PMID: 11566638
- フラボノイドの生理活性 FFI J. 2006 211(7):p472-481
- 生化学辞典 第3版 東京化学同人